【イベント報告】「「弱者」バッシングにどう対抗するのかー障碍者・病者・貧困者 この社会の真の生存権を目指して」

イベント
07 /03 2017
 6月28日の反貧困ネットワーク埼玉主催イベント「「弱者」バッシングにどう対抗するのかー障碍者・病者・貧困者 この社会の真の生存権を目指して」(講師:渡辺寛人さん)は、学生や若手ソーシャルワーカーの方なども含め、20人以上の方が参加され大盛況に終わりました。

本記事では、このイベントの講演内容を渡辺さんの資料とともに簡単に紹介します。
※なお、この講演内容は、先月発売の雑誌『POSSE』35号の渡辺さんの記事「生を否定するバッシングの登場 市場の論理に服従する人々」を元に作られられたとのことですので、興味ある方はそちらもご参照ください。

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貧困者に向けられるバッシングの質的変容

 「年越し派遣村」など貧困問題が日本で話題になり、「反貧困」の運動が始まった10年前、貧困者に向けられるバッシングは「自己責任だ」といった消極的なものでした。
 しかし、最近のバッシングはそこからさらに、積極的、攻撃的になっています。以下の表は近年の関連バッシングや事件の一部をまとめたものです。
近年のバッシング

「貧困女子高生問題」「相模原事件」などが象徴的ですが、貧困者をはじめとする「社会的弱者」を積極的に攻撃している様子が資料から見て取れます。

生活保護申請の妊婦に自治体職員が「産むの?」中絶ほのめかす…対応の不備認め謝罪
 また、渡辺さんが事務局長を務めるNPO法人POSSEが支援し、記者会見をしたこちら事件に対するネットの反応(ヤフー記事へのコメント欄)もひどいものでした。

 「そもそも人のお金で暮らしてるのに、自由や権利求めすぎ。妊婦でも働いてる人は山ほどいるし、内職でもして生きる為に少しは稼げよ。
と労働倫理を強調するものや、

腹の子の親が責任とれよといいたいが金ないのに子作りしてんじゃねーよ。生活保護頼みとかないわ。」
と家族責任を強調するもののほか、

「生活保護のくせに産むわけ?ふざけている。銃殺にしたいくらいだ。」「貧困層には去勢手術受けさせろ
など、貧困者の生そのものを否定するバッシングもありました。


なぜバッシングが引き起こされるのか?

◯日本型福祉社会
 では、なぜこのような積極的、攻撃的なバッシングが引き起こされるのか。そのためには、まず今の日本社会がどのような状況なのかという分析が必要です。
 『日本型福祉社会』は1979年に自民党によって出版された文献です。ここでは、欧米型の福祉国家を徹底的に否定し、個人の生活を支える「安定した家庭と企業を前提」とし、それを市場によって補完し、最終的な生活保障は国家によって行われる、という構想が描かれています。そして、国家の役割は「家族基盤の充実と企業の安定と成長、ひいては経済の安定と成長を維持する」こととされます。
 そのような社会では、住宅を確保する、子供に教育を与える、老後を過ごすと言った「普通」の生活を送るためには、企業から受け取る賃金や、それに基づく貯蓄やローンが必要になります。経済成長や企業成長が、自分たちの生活にとって重要なものとなり、そうした市場の要請に服従する主体が形成されるのです。市場の論理に「服従」することは、日本社会で「普通」の生活を送る「唯一の」方法であり、「自由」であり「正義」となります。
 ここから、先ほどのヤフコメでのバッシングに見られたような強力な労働論理と家族責任的な自己責任観が形成されてきます。

◯日本型福祉社会の「成れの果て」としての現在
 しかし、経済成長という前提は失われ、長期雇用と年功賃金を特徴とする日本型雇用システムは収縮し、その恩恵を受けることができない非正規雇用労働者が増えています。そして日本社会全体の貧困化が進んでいます。
 中位世帯所得は1995年545万円だったのが、2012年には432万円となっており、20代単身の金融資産非保有率は2009年の31.1%から2016年には59.3%と倍増しています。
 また、生活保護水準以下の所得しかない人口(貧困人口)はこのように増えています。
最低生活費以下の貧困人口推移

日本社会では、今や3000万人近くの人が、生活保護水準以下での生活を強いられているのです。

 さらに、中間層の貧困化もこの20〜30年で急激に進展しています。
中間層の聚落

 このように、社会全体が貧困化しているのですが、「日本型福祉社会」の元では、なかなか人々の要求が「社会保障を充実しろ」という方向にはなりません。
 むしろ「普通」の生活のために、自分たちの所得を増大させようとする意識が強化されます。そして、その「唯一の方法」である、経済=企業の成長を至上命題とする市場の論理がより一層強化され、日本社会の「正義」の基準を作り出すことになります。
 この「正義」こそが、自立できない若者や障害者、病人、妊婦、福祉に「依存」している人へのバッシングへとつながるのです。

 実際に、「相模原事件」は起きてしまいましたし、「経済・生活問題」を動機にした自殺者数は、2000年以降、毎年4千〜8千人に及びます。生活保護行政の問題を背景にした餓死や孤独死は数多く確認され、生活保護受給者の自殺率は一般の約2倍と言われています。
 「日本型福祉社会」の成れの果てとしての、「弱者」をバッシングする社会が人の命を奪っているというのは比喩ではなく、事実です。


日本型福祉社会規範の崩壊と新たな可能性

 「弱者」へのバッシングの強化は、日本型福祉社会の成れの果てであり、「断末魔」でもあります。だからこそ、そこには新しい社会の萌芽もあります。
 例えば、昨今注目されている「子どもの貧困」という問題は、家族がもはや子どもを支えられないという状況を示しており、従来型の規範から脱皮し、社会全体で子どもを支えるべきとする新しい社会規範を、そのうちに内蔵しているものといえます。
 さらに具体的な取り組みとしては、バッシングの根源は人々の生活状況の苦しさにあるため、働き方の改善がバッシングの緩和につながります。その意味で、最低賃金を1500円にする運動は、バッシングへの抵抗にとっても非常に重要になってきます。
 また言説的には、日本型福祉社会の「無理」を可視化していくことが重要になります。POSSEでは「反バッシングセンター」を立ち上げ福祉行政の違法・人権侵害行為の可視化を行なっています。


福祉国家の実現のために

 市場の論理が貫徹された結果生み出されたバッシング社会。その克服のために、一つ重要になるのは市場の論理を抑えこむような「福祉国家」を目指した戦略です。
 ただ、福祉国家とはなんでしょう。ヒントになるのが、イギリスでの福祉国家に対する考えです。

「イギリス人にしてみれば、社会保障の促進を望む以上は、市民が自発的に社会活動をやって自分たちのそれぞれの像方向へ社会生活を向上させる努力をしていないと、独裁政治にお尻をひっぱたかれ、自由を剥奪され、無理にでもやらされる危険があると思っているから、日ごろのボランたりな社会奉仕活動を怠らない」

「イギリス国民にしてみれば、イギリスが福祉国家になったのではなくして、努力を重ねて福祉国家にしたのであり、いまもしつつあるのであって、人間の社会がたえず変化する以上、社会保障がもうできあがったとか、完成したとかいう状態になることはありえないと思っている」
(渡辺華子『福祉国家 イギリス人とわたくしたち』JIL文庫)


 つまり福祉国家とは、単に「国家による制度」を指すのではなく、社会を構成する私たちの主体的・自発的な営みの上に成り立ちうるものなのです。
 そのため、重要になるのは、地域単位の運動ネットワークと全国的なネットワークの連動となります。市民がそれぞれの地域で様々な福祉実践を行いそれをつなげていく、そんな運動が求められています。反貧困ネットのような、各地域に組織がある運動の再活性化、新たな担い手の育成が今後は必要になるでしょう。
新しい貧困運動図

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 主催側としても、今回の講演内容は自分たちの運動の方向性を考える上で多くの気づきを与えてくれるものでした。
 反貧困ネットワーク埼玉では「地域単位の運動ネットワークと全国的なネットワークの連動」の流れを作るべく、今後も様々な取り組みを進めて参ります。この社会の「無理」にお気付きのみなさまも、ぜひこの運動を応援、そして参加していただければと思います。

◯反貧困ネットワーク埼玉とは
 反貧困ネットワーク埼玉は、埼玉県内で生活や労働、多重債務・消費者被害など様々な場面で相談を行っている支援者たちが作った個人加盟の任意団体です。代表は社会福祉士で『下流老人』(朝日新書)『貧困世代』(講談社)などの著作があるNPO 法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典。

◯問い合わせ
ボランティア希望の方、何か疑問がある方はこちらのメールアドレスまでご連絡ください。
antipovertynet.saitama[アットマーク]gmail.com

また、学生ボランティア希望の方はこちらの記事をご参考ください。
学生ボランティアを募集しています!
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反貧困ネットワーク埼玉

反貧困ネットワーク埼玉は、埼玉県内で生活や労働、多重債務・消費者被害など様々な場面で相談を行っている支援者たちが作った個人加盟の任意団体です。代表は社会福祉士でNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典です。